LOGINどの位眠っていただろうか……。突然目が覚め、慌てて飛び起きた。ベッドサイドに置かれた置時計を見ると、もう12時を過ぎていた。「嘘!? 私……6時間以上眠っていたの!?」姉はどうしているのだろう? 慌ててベッドから降りると私は自分の部屋を飛び出し、姉の部屋のドアを遠慮がちにノックした。――コンコン「……」しかし返事は無く、部屋からも人の気配を感じない。「ひょっとして部屋にいないのかな……? お姉ちゃん……入るね……」遠慮がちに部屋のドアを開けるとカーテンは閉められたままで、部屋はもぬけの殻だ。「お姉ちゃん!?」何だか嫌な予感がする。急いで階段を降りてリビングへ駆け込み……ヘナヘナと床の上に座り込んでしまった。リビングのソファでは亮平と食事をしている姉の姿があった。「おう、鈴音……目が覚めたのか?」亮平はコンビニで買ってきたお弁当を食べながら私を見た。「う、うん……」「鈴音ちゃん!」姉は立ち上がると私の傍に駆け寄り、ギュッと強く抱きしめてきた。「お姉ちゃん……」「ごめんね……ごめんね……鈴音ちゃん……心配かけて……」姉は私を強く抱きしめたまま肩を震わせた。熱い……。姉の涙が私の肩を濡らしていく。「お姉ちゃん……謝らないでよ……。お姉ちゃんはちっとも悪いことしていないじゃない……」私も姉を強く抱きしめ返す。そして私たちは暫くの間、言葉を交わさずに泣きながら互いの体を抱きしめあった―― ようやく落ち着いた私たちに亮平が声をかけてきた。「鈴音。お前も昼飯にしろよ」椅子に座った亮平を見上げると、立ち上がった姉はソファに座りなおした。「そうね……。鈴音ちゃん。今夜18時からお通夜があるのよ。……一緒に来てくれるかしら?」「もちろんだよ! 行くに決まってるでしょう?」「なら、尚更早く昼飯食ってしまえよ」「うん。分かった……」……あれ? 立てない……。「どうしたんだ? 鈴音」「鈴音ちゃん?」亮平と姉が怪訝そうな目で私を見る。「あ、あはは……な、何でもないよ」まさか驚きのあまり腰が抜けてしまったなんて2人に話せば心配させしまう。「なら早く来いよ。あ、忍さん。お茶淹れますよ」亮平は立ち上がるとキッチンへ向かった。よ、よし……今のうちに……。私は腰を落として四つん這いになってリビングへ向かおうとして……。「鈴音ちゃ
長い夜が明けた――私は全く寝た気がしなかった。お姉ちゃんのことが心配で、目が覚めた時に思い余って自殺でもしてしまうのではないかと思うと不安でたまらず一睡もすることが出来なかった。ソファの上でウトウト微睡んでいると、突然玄関のチャイムが激しく何度も鳴らされた。「何? 何?」半分寝ぼけ眼で玄関のドアを開けると、そこには亮平が立っていた。「……おはよう、鈴音」「うん……おはよう。どうしたの? こんな朝早くから……まだ6時前だよ?」「いや……あんなことがあったから……朝ご飯の用意どころじゃないと思って……」見ると亮平の右手にはコンビニの袋がぶら下がっている。「まさか……買ってきてくれたの?」「ああ。上がるぞ」亮平は短く言うと、靴を脱いで上がり込んできた。ダイニングテーブルにコンビニの袋を置くと天井を見上げた。「忍さんはどうしてる?」「寝てる……。何回か部屋に様子を見に行ったけど……泣きながら眠っていたよ。でも睡眠薬が効いてるのかな? 起きた気配は無いよ」「そうか……。それでどれ食べる?」亮平はレジ袋から次から次へと食べ物を取り出した。おにぎりやお弁当、カップ麺にサンドイッチ、総菜パンや菓子パン……挙句に冷凍食品まで出してきた。「ちょ、ちょっと亮平……これは幾ら何でも買い過ぎじゃない? こんなに食べきれないよ」苦笑すると、亮平はポツリと言った。「だよな……。でも……どれなら忍さんが食事してくれるか分からなかったから……」「そっか……」またしてもしんみりとした雰囲気になってしまった。だけどこんなことしていていいのだろうか? お姉ちゃんは睡眠薬のせいで眠りっぱなしだし、かといって私は進さんの連絡先しか知らない。お葬式の話だってあるだろうけど、私にはそれを確認する手段が無かった。かといってお姉ちゃんを起こすのもしのびない。「これからどうしよう……」考えなくちゃいけないことは沢山あるのに、夜が明けたせいなのか、それとも亮平が来てくれた安心からなのか、急激に眠気が襲ってきた。それでも必死で欠伸を噛み殺していると亮平が言った。「鈴音……もしかして眠いのか? 寝てないのか?」「うん……お姉ちゃんが心配で……眠れなかった」「鈴音。お前……今日仕事は?」「うん。本当はあるんだけど昨夜のうちに上司に電話を入れたの。姉の婚約者が車にひき逃げされ
お姉ちゃんの様子を伺い、私は部屋のドアを閉めると階下に降りた。リビングルームには亮平が頭を押さえてソファの上に座っている。「亮平」そっと名前を呼ぶと、亮平は素早く頭を上げて私を見た。「どうだ……? 忍さんの様子は」「うん……始めのうちは大分興奮して泣き叫んでいたけど今はもう泣き疲れて眠ってる。多分一睡もしていないんだと思う……」そして私も亮平の隣にすわり、ため息をついた。 それは突然の出来事だった。姉と進さんは2人でデートをしていた。交差点で信号待ちをしていて、信号が青になったので渡って歩いていたら、そこへ1台の車が猛スピードで突っ込んできた。進さんは咄嗟に姉を突き飛ばし……車に轢かれてしまった。そしてあろうことかその車はそのまま走り去ってしまった。ひき逃げだったのだ。辺りは騒然となった。取り乱した姉を周囲にいた人たちが何とか落ち着かせ、すぐに救急車が呼ばれた。進さんは救急車で運ばれ、突き飛ばされたことで怪我をした姉も同じ病院に運ばれた。車に轢かれた進さんは5時間にも及ぶ手術を受けたものの、結局助からなかった。一方の姉は打撲の治療を受けた後、進さんの両親と手術が終わるのをずっと待っていたが、手術を終えた医師から進さんが帰らぬ人となったことにショックを受け、気を失ってしまい……私とは一切連絡が途絶えてしまっていたらしい。そしてやっと目を覚ました姉は進さんの両親に言われ、帰宅してきたのだった。「信じられないよ……。進さんが死んでしまったなんて……」何て可愛そうなお姉ちゃん。お父さんもお母さんも死んでしまって苦労して……私の面倒を見てくれて、進さんという恋人が出来てようやく今年結婚して幸せになるはずだったのに……。「俺が悪いんだ……」亮平が口を開いた。「え? 何が悪いの……?」一体亮平は何を言っているのだろう。「俺が……忍さんのことを好きだったから……忍さんの恋人を妬んで……!」亮平が頭を抱えた。「ちょっと……亮平、落ち着いて」亮平の肩に手を置いた。「そうだ……俺は願ったこともある。あいつなんかいなくなってしまえばいいのにって……。俺がそんなことを願ったから、あの人は……!」「亮平!」パンッ!!私は亮平の頬を叩いた。「鈴音……?」亮平は呆然と私の顔を見た。「自分のせい? 進さんがいなくなってしまえばいいのにって願
亮平のくれた痛み止めのお陰で片頭痛は収まり、何とか1日の業務をこなすことが出来た。そして今日の私は残業当番の日……。「加藤さん。今日は残業だけど大丈夫?」早番で帰る井上君が心配そうに帰り際声をかけてくれた。「う~ん……どうかなあ……。でもほら、痴漢は逮捕された訳だし? 多分大丈夫……かなあ? そうだ! 明日は仕事が休みだから自転車買いに行こうかな?」そうだ、自転車を買えば良かったんだ。たかだか駅まで10分程度だったから自転車のことを考えて居なかった。徒歩よりはずっと安全に帰れそうな気がする。「それはいいね。自転車ならある気より安心だよ。それじゃ本当に帰りは気を付けた方がいいからね?」井上君は何故か必要以上に心配してくれる。その優しさが亮平にもあったらなあ……。「それじゃあお疲れさまでした」井上君は皆に挨拶して帰って行った。さて、私も後ひと踏ん張りしなくちゃ。****「うぅ……遅くなっちゃたな……」今の時刻は21時。これから電車に乗って地元の駅に着くのは21時30頃。そこから歩きか……。私は溜息をついた。それにしても……今私が一番気になっているのは昨日から姉と連絡が取れなくなっていること。一体何があったんだろう。こんな丸1日たっても連絡が取れないなんて今迄無かったのに。何だろう? 何だがすごく嫌な予感がしてならない。そのとき。トゥルルルル……!突然スマホが鳴った。「うわあっ!」手にしていたスマホが鳴り響き、びっくりして思わずスマホを落しそうになってしまった。着信相手を見ると亮平からである。「亮平……? 一体どうしたんだろう……?」スマホをタップすると電話に出た。「はい、もしもし」『鈴音か? 今何処だ?』「何処って……」 私はこれから電車に乗って帰ることを伝えた。『よし、駅で待ってるからな。だから勝手に歩いて帰ったりするなよ?』「うん! ありがとう! 大好きだよ!」どさくさに紛れて言ってみた。『ば〜か、気持ち悪いこと言うなよ』変な返しをされてしまった。ちぇ……やっぱり本気で受け取ってくれなかったか。だから私も胡麻化すことにした。「アハハハ……そうだよね。ちょっと気持ち悪かったかもね。でもありがとう」それだけ言うと私は電話を切って、電車に乗った――****「おーい、鈴音!」車のドアを開けて身を乗り出し
「あ~……頭痛い……」ガンガン痛む頭を押さえつつ、シリアルを食べていた私は隣のリビングでソファに寝っ転がりながらスマホをいじっている亮平を見た。「ねえ、亮平」「何だよ」亮平はスマホから目をそらさずに返事をする。全く……亮平は私には塩対応ばかり取るんだから。でも、そんなこと一々気にしていたらこっちの身が持たない。よし、気にしない気にしない……。「朝ご飯はどうしたの?」「いや、まだ食っていない」「シリアルで良ければ食べる?」「いらん。やっぱり日本人は米と味噌汁だろう?」「え? じゃあ何でまだここにいるの? もう家に帰ったら?」「……」何故か亮平は返事をしない。ははあん……なるほど……。「そっか、お姉ちゃんにお帰りを言いたいんだね?」すると亮平はガバッとソファから身を起こした。「ばっ! 馬鹿! 何言ってるんだ! ガキじゃあるまいし!」亮平の大声が頭に響く。「ちょっとぉ~頭痛いんだから大声出さないでよ……」ズキズキする頭を押さえ、シリアルにかけていた牛乳を飲み干した。「二日酔いだろう? 自業自得じゃ無いのか? 大して強くないくせにガバガバ飲むから……」「そんなこと無いってば。でも元はと言えば田代さんのせいじゃないの? 睡眠薬をアルコールに入れた物を飲まされたんでしょう?」「フム……それは確かに要因の一つかもしれない……」腕組みをして妙に納得する亮平。「そう? 分かったなら……今日私の代わりに仕事してきてよ」「おい! 無理言うなっ!」「だから叫ばないでってば……。そう言いたくなる程頭痛が辛いんだもの……」頭を両手で抱える。「おい鈴音。お前……そんなに辛いのか?痛 み止めとかはあるのか?」流石に心配してくれるのか、亮平が立ち上ると私の傍へやって来た。「痛み止め……無い。切らしちゃったんだっけ……」ポツリと言う。そんな私の様子を少しだけ亮平は見ていたが、突然無言で玄関へ向かって出て行ってしまった。「……帰ったのかな? 何よ。挨拶位して帰ればいいのに……」食べ終えた食器を流しに運び、後片付けをしようとしている時に玄関の閉まる音が聞こえた。「ん? 誰だろう?」するとキッチンに亮平が現れた。「あれ? 帰ったんじゃなかったの?」「違う、痛み止めを取りに行って来たんだよ」そう言うと亮平は錠剤を2つテーブルの上に置いて
ピピピピピ……!う~ん……煩いな目覚ましの音だ……。ベッドから右手を伸ばし、手を動かして目覚まし時計を探していると四角い手のひらサイズの何かが触れた。よし、これだ。目を閉じたままバチンと目覚まし時計を止めて、布団を被りなおし……。「あーっ!! 今日も仕事だったんだ!」ガバッと飛び起きた途端、ズキリと頭が痛んだ。「う……あ、頭が痛い……。あれ? そう言えば私いつの間にかベッドで寝ているけど、どうやって家に帰ってきたんだっけ……?」ガンガン痛む頭を押さえて、ベッドから降りるとかろうじて部屋着には着替えていたようだ。だけど……。自分の身体の匂いをスンスンと嗅いで、顔をしかめた。「う……お酒臭い……」チラリと目覚まし時計と見ると時刻は6:10。今からすぐにシャワーを浴びて、髪と身体を洗って、濡れた髪をタオルで巻いて……。牛乳にシリアルならすぐに朝食を食べ終える事が出来る! 頭の中でざっとシュミレーションを立てた私は箪笥から下着を引っ張り出すと急いでお風呂場へと向かった。**** シャワーでお湯を頭からかぶり、身体を洗いながら髪も洗う。泡をよーく洗い流した後はバスタオルで身体を拭いて頭にタオルを巻き付けると下着を身に着けた。そしてお風呂場から出た私は、そこで亮平と遭遇した。「あ……」亮平は下着姿の私を上から下までじっくり見渡し……。「な、何で亮平がここにいるのよ~っ!!」私は絶叫していた――****「つまり、亮平はお姉ちゃんに私のことを頼まれて、ここにいるってことね?」夏物のカジュアルスーツに身を包んだ私は器に開けたシリアルに牛乳を注ぎながら亮平を見た。「あ、ああ……そうだ。忍さん彼氏と泊りで家に帰れないから、代わりにお前の様子を見て貰いたいって……頼まれて……」明らかに元気なく答える亮平。う~ん…思いを寄せる女性からの、彼氏とお泊りデートの報告を受けるのは……確かに痛い話かもしれない。だけど……。私はチラリと亮平を見た。私だって……ずっと亮平のこと好きなのに……。その時。「おい、鈴音。お前、朝飯それだけで行くつもりか?」「うん……駄目かな?」「いや、駄目って言うか……あっ! それよりも鈴音! お前、昨夜はよくも何回も人の髪の毛抜いてくれたな!? ものすごーく痛かったぞ!」「え? 髪の毛? 抜いた? 何回も?」







